最初に言わなければならない事は、
1021と821はまったく別のリールということだ。
従来のアンバサダーは(当たり前の常識として)
5500Cと6500Cの違いは幅方向のサイズだけであり、
モデル名の数字がラインキャパシティの違いを
表していたわけだが、1021と821はそうではなく
数字の持つ意味は異なる
全然別のシリーズのリールに、カージナル3、
カージナル4という名前を付けてカタログに並べるだろうか
当時のABUGARCIAの経営陣は、何を思ったか別のリールに
関連ありそうな名前を付けることによってユーザーを
混乱させた
Ambassadeur 821 はスヴァングスタ(ABU本社)監修の元、
西ドイツのポルシェデザインが開発を行った
821が「スーパーカー的なデザイン」と評されるのは
このことが関係しているかもしれない。
それはさておき、この時のスヴァングスタの状況は
非常に危機的であった。
アメリカ主導の1021の開発プロジェクトが同時に
始まっており、もしこの競争に敗れるようなことがあれば、
今後のアンバサダーの開発は、スヴァングスタの手から離れて
アメリカに移ることを意味していたからだ。
発売時のカタログから
Ambassadeur800シリーズのハイテクな形状は、精密なスウェーデンのエンジニアリングへの賛辞です。アブ・ガルシアは、機能的でありながら美しい、モダンデザインの傑作を作り上げました。高価なレーシングカーのドアのように回転し、スプールに簡単にアクセスできるユニークな「FLIP-UP」サイドプレートがあります。この機能はコンピュータで設計され、最高のパフォーマンスを保証します。
装備表には21項目がリストアップされている
<FLIP-UP SIDE PLATE>
パーミング側のサイドプレートを跳ね上げ式とした
XLTのフリッパーバヨネットを発展させたデザインである
<GRAPHITE CONSTRUCTION>
一体成型のグラファイトフレームを採用
2枚の金属プレートをフレーム両サイドに配置し
各種のメカニカルパーツを搭載した
<HOOK SET SPOOL LOCK>
ドラグをロックする機構
後年、LITEシリーズに受け継がれた
<SPEED ADJUSTABLE MAGNET BRAKE>
XLTのAUTO MAGユニットを流用
<FREE FLOATING LEVEL WIND>
分離式、浮動式レベルワインダー
セラミックラインガイド
<HIGH SPEED RETRIEVE>
ギヤ比 4.7:1
<SOFT TOUCH HANDLE GRIP>
ティアドロップ形状のソフトな素材のハンドルノブ
ちなみに、821と1021で共通使用されるパーツは
外装ではハンドルだけである。
フレームはもちろん異なる。スプールも別物
内部パーツにおいても共通部品は一部にとどまる
2台のリールの開発が、アメリカとヨーロッパにおいて、
いかに独立して進められたかがわかる
デザインについて言及するならばそれは
両サイドからリアへ繋がる「ルーバー」だ
'80フェラーリを彷彿とさせるこの造形こそが
821を象徴するデザインアイコンである
ルーバーはボディだけでなく、ハンドルノブ
そしてマグのダイアルにも施されていることに注目
821の統一的なデザインモチーフとなっている
新しいABUの試みは成功したのか
821のデザインにおける存在感は、ABU社の後続のリール、
他メーカーのリールの多くに影響を与えている。
残念ながらこのリールは比較的短命に終わった
大きな資金を投入したABUに大きな失望を与えたに違いない
しかし今日、そのことはABUが多くの問題に直面していた時代に
勇気と大胆さをもって立ち向かった歴史を証言している